薄片・研磨片の世界

ギャラリーでは、薄片・研磨片に関係のある情報を幅広くお伝えしていきます。

第4回「天然の美」

第4回は、マダラクモヒトデの美しい姿をご紹介します。

マダラクモヒトデ

作製:田尻 理恵 (早稲田大学 教育・総合科学学術院 薄片室)
未固結堆積物を薄片にする技術を応用して、マダラクモヒトデの薄片を作製しました。この手法では、動物に含まれている水分をアセトンに置換することによって完全に脱水し、次にアセトンをSpurr樹脂に置換して、その後Spurr樹脂を熱重合で固化させてから薄片にします。非常に手間のかかる手法ですが、動物組織内部の位置関係そのままに硬組織も軟組織も同時に観察することが可能となります。

樹脂包埋して固化した状態のマダラクモヒトデです。この状態になるまでに、アセトン置換に1日、樹脂交換と固化に4日半かかります。樹脂が黄色く着色しているのが難点ですが、薄片の観察には支障ありません。

盤の直径が5mm程度のマダラクモヒトデ(Ophiopholis mirabilis)を薄片にした全体像です。以下、それぞれ特徴的な部分を拡大して紹介します。

全体像の左腕部端に見えている、端板と呼ばれる部分です。骨組織の繋がり方が、見事な自然の造形を感じさせます。厚めに仕上げたことで、このように奥行きを観察することも可能となりました。

腕の一部です。腕骨と筋肉の付着部分が観察できます。

腕の一部を偏光顕微鏡クロスニコルで撮影しました。

胃です。細長いひものような組織で周辺部と繋がっているのが観察できます。

胃の周りを取り囲んでいる薄いピンクのクッション状のものは何でしょうか?質感も胃とは異なります。

口板とその周辺部です。筋肉と骨組織との繋がり方がよく観察できます。食べていたものも一緒に薄片になっており、砂粒の中に有孔虫らしきものも見られます。

作製者からのコメント

岩石薄片技術は、生物の硬組織と軟組織を本来の位置関係を保ったまま同一平面で観察することを可能にします。薄さは調節できるので、今回は組織の色や境界をはっきり観察できるよう、通常の岩石薄片よりかなり厚めの100μm程度に仕上げました。もちろん一般的な生物切片用の10μm程度の薄さに仕上げることも可能です。画像上の色は、クロスニコル画像以外は全て天然の色です。歯舌の赤紫や胃の黄土色なども組織本来の色で、一切着色はしていません。画像撮影については早稲田大学の佐藤侑人氏のご助力を賜りました。厚く御礼申し上げます。