薄片・研磨片の世界

ギャラリーでは、薄片・研磨片に関係のある情報を幅広くお伝えしていきます。

第2回「海のもの, 宇宙(ソラ)のもの」

薄片になるのは岩石だけではありません。そこで今回は海で獲れたアサリ(1)、そして宇宙から地球に落ちてきた隕石(2)の薄片を紹介します。(写真をクリックで拡大)

1. 海のもの:アサリの薄片

作製:中村晃輔(北海道大学大学院理学研究院 薄片技術室)
生のアサリは硬い部分(殻)と柔らかい部分(軟体部)をもっています。生アサリ全体の薄片を作製するため、最初にアサリ全体を樹脂で包埋しています。通常の岩石薄片の厚さ(30ミクロン)ではなく、貝の年輪(成長線)が見える厚さに仕上げました。(約60ミクロン)

アサリ写真1

これから薄片になるアサリ

アサリ写真2

貝に脱塩処理などを施した後、樹脂で固めます。(樹脂置換)

アサリ写真3

硬化後に切断した状態。この後、余分な樹脂部分を切り取り、スライドガラスに接着する面を研磨していきます。

アサリ写真4

スライドガラスに接着した様子。樹脂の中に包埋された貝が見えています。接着後、切断機を使用して薄く切断します。

アサリ写真5

薄く切断した後に粗い研磨材でさらに薄くした状態です。軟体部が詳細に見えてきました。この後、細かい研磨材で厚さが最終目的の厚さになるまで研磨していきます。

アサリ写真6

完成したアサリの薄片 倍率:×50, クロスニコル アサリ貝の殻頂(蝶番部分)です。試料で最も硬い部分ですので、そのことを念頭に置いて研磨します。貝が開いた状態では観察できない部分も観察できます。

アサリ写真7

倍率:×50, クロスニコル
観察する依頼者の求める厚さに調整します。今回は、貝の成長線がよく観察できる厚さに調整しました。

アサリ写真8

倍率:×50, オープンニコル
樹脂包埋処理による薄片作製によって硬組織と軟組織を同時に観察することが可能となります。オープンニコルで観察すると樹脂で埋まっている部分(試料以外の部位)に研磨傷が顕著に見えてしまうので、貼付け時と研磨時にその点も注意しました。

作製者からのコメント

軟体部を樹脂で包埋し収縮をできるだけ避けて薄片を作製することで、アサリ貝の「そのまま」を観察することができます。また、ミクロトームを使用せず薄片技術を応用し任意の厚さにしたので、ミクロトーム使用に必要な難しい脱灰処置も必要ありません。このように薄片技術は岩石だけではなく、多くの試料に応用することが可能です。今回、多分なご協力や技術のご教示を頂いた産業技術総合研究所地質標本館の大和田朗氏、ならびにアースサイエンス株式会社の佐々木克久氏、また、樹脂置換のご指導を頂いた北海道大学歯学研究科学術支援部の本間義幸氏に心から謝意を表し厚く御礼を申し上げます。

※ミクロトーム:物体を薄く切断する機械

 

2. 宇宙(ソラ)のもの:隕石の薄片

作製:伊藤嘉紀(東北大学理学研究科地学専攻技術室)

今回、オマーンのドファール地方で発見された隕石と、無重力での結晶成長を研究するためにガス浮遊法で人工的に作製したコンドリュールの研磨薄片を紹介します。

隕石写真1

オマーンのドファール地方で発見された隕石です。(約2cm)

人工コンドリュール

ガスで浮遊させ、レーザーで過熱して作製した人工コンドリュールです。(約2.5mm)

人工コンドリュール

硬化後に切断した状態。この後、余分な樹脂部分を切り取り、スライドガラスに接着する面を研磨していきます。樹脂が完全に硬化したら、スライドグラスに接着する面を研磨し、エポキシ樹脂でスライドグラスに接着します。今回は、産業技術総合研究所地質標本館の大和田氏のアドバイスで、接着面はダイヤモンド研磨材による鏡面研磨仕上げをしました。

隕石写真

樹脂が、硬化したら通常通りの手順で研磨薄片を仕上げました。ただし、隕石については、潤滑剤は油を使用しています。

人工コンドリュール

完成した人工コンドリュールの研磨薄片(顕微鏡写真) 倍率:X10, オープンニコル

人工コンドリュール

人工コンドリュール(顕微鏡写真) 倍率:X10, クロスニコル

隕石研磨薄片

完成した隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×2,
オープンニコル(左)
クロスニコル(右)

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×2,
オープンニコル(上)
クロスニコル(下)

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, オープンニコル

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, クロスニコル

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, オープンニコル

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, クロスニコル

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, オープンニコル

隕石の研磨薄片

隕石の研磨薄片(顕微鏡写真)
倍率:×10, クロスニコル

作製者からのコメント

依頼される隕石の多くは小さく、また厚みがありません。そのため、失敗が許されず作製にはとても気を使います。