薄片・研磨片の世界

ギャラリーでは、薄片・研磨片に関係のある情報を幅広くお伝えしていきます。

第3回「自然のちから・人のちから」

第3回は、(1)自然のなかで生きるために人間が育てた穀物の薄片(2)自然の力によってできたザクロ石の薄片、そして(3)人間によってつくられた携帯電話基板の研磨片をご紹介します。

 

1. 種籾(たねもみ)

 

作製:

作製:佐々木克久(アースサイエンス株式会社)
岩石鉱物の薄片技術を応用して、お米の薄片を作製しました。お米と言っても家庭でそのままご飯になるものとは少し違います。ここで使用したお米は籾状態のまま稲栽培に使う種籾です。

種もみ写真1

茨城産コシヒカリの種籾です。

種もみ写真2

種籾は稲を作るためのものなので、換気扇フィルターの上に置いて水に浸しておくことで発芽します。写真は室内で約70日間、水だけで14cmに成長した状態です。

種もみ写真3

いろいろな角度から観察するため研磨断面をカバーガラスに接着しました。この後、樹脂で全体を包埋します。

種もみ写真4

樹脂が固まった状態を薄いガラス側から撮影しました。「米」という漢字になるように並べました。

種もみ写真5

平らに研磨した後、スライドガラスに接着し、約30ミクロンまで薄く研磨して完成です。

種もみ写真6

全体写真(開放ニコル) 薄く研磨して薄片となった種籾を偏光顕微鏡で観察してみます。

種もみ写真7

倍率:×10, クロスニコル
肉眼でみるのとは違った種籾の姿を見ることができます。

種もみ写真8

全体写真1の部分です。倍率:X100
玄米部、籾殻部の拡大画像

種もみ写真9

全体写真2の部分です。倍率:X100

種もみ写真10

全体写真3の部分です。倍率:X100 胚芽部の拡大画像

作製者からのコメント

種籾は、水や油などの液体で膨張するので、研磨時に使用される潤滑液や洗浄によって、簡単に壊れてしまいます。そのため産総研が開発した水や油を使用しない乾式法を用い、良好な状態の薄片を作製することができました。 このたびの作製にあたっては産業技術総合研究所地質標本館の大和田朗氏より樹脂包埋方法と接着方法について適切なご指導を頂きました。ここに記して感謝を申し上げます。 参考文献 ・籾のEPMA用研磨薄片作製 古田広文 地殻No,21(2005年)

 

2. 灰礬ザクロ石(グロッシュラー)

作製:阿部道彰(東北大学理学研究科地学専攻技術室)

グロッシュラー写真1

全体写真(オープンニコル) 左の写真は山口県上保木で産出された灰礬ザクロ石(グロッシュラー)とよばれるザクロ石の一種です。その主成分はカルシウムとマグネシウムとケイ素です。ザクロ石の結晶系は一般的には等軸晶系と考えられており、その結晶構造は立方体(サイコロの様な形)をしています。

グロッシュラー写真2

全体写真(クロスニコル) 偏光顕微鏡の偏光板を入れた状態(クロスニコル)で等軸晶系の鉱物を見ると、干渉色を示さず真っ暗になります。このザクロ石は、Aの部分は等軸晶系に近いが、Bの部分のように色が付いて見えるところは等軸晶系からずれており、干渉色を示し明るくなっています。このように等軸晶系でないザクロ石もあります。

グロッシュラー写真3

B部分の顕微鏡写真(オープンニコル, ×10) 薄片で鉱物の内部を観察するとさまざまな組織を観察することができます。左の写真は、ザクロ石の内部を拡大したもので、細かい縞模様が観察されます。この縞模様は、外形に平行で、鉱物が成長する際に形成された成長縞とよばれるものです。

グロッシュラー写真4

B部分の顕微鏡写真(クロスニコル, ×10) 同じ部分のクロスニコル写真です。化学組成の違いと、わずかな結晶構造の違いによりこのようなコントラストが生まれています。この試料は薄片を観察することで、結晶がどのように成長したかを知ることが出来ます。

作製者からのコメント

依頼者から「ザクロ石の薄片を作ってほしい」と依頼されてもその個別の試料ごとに、等軸晶系であったり無かったりといった違いがあります。今回のザクロ石に限ったことではありませんが、似たような試料でもそれぞれの試料を見易い厚さに微調整するなど、依頼者の希望に沿った仕上がりになるよう心掛けています。

 

3. 携帯電話に使用されている基板を磨く―プリント回路板PCBの断面組織観察-

作製:水野義則(丸本ストルアス株式会社)
携帯電話に内蔵されている基板PCBの断面を研磨してその組織を観察しました。PCBはセラミックス、金属、樹脂等の硬度の異なる材料から構成されている多層の基板です。そのため、各材料を含む断面を磨いて平面にする作業は難しく、通常は全行程を自動研磨で行っていますが、各層に段差が生じる場合があります。

基盤写真1

マスキングテープで印をつけ切断します。

基盤写真2

樹脂で包埋します。最初に、位置ずれや転倒を防ぐため基板をカバーガラスに接着し、型に入れます。樹脂(カルドフィックス2)を流し込み、基板の空隙に樹脂をより充填させるため、真空含浸装置にかけて脱泡します。

基盤写真3

硬化した試料を各種研磨材を使用して、顕微鏡観察に必要な平面を作製します。

基盤写真4

試料を反射顕微鏡で観察すると各層の研磨状態が観察できます。

基盤写真6

矢印は半導体チップ部分

基盤写真6

基材、銅、メッキ、部品層にダレなどの歪みがなく、研磨面全体にも段差が無いので、微細な形状も正確に把握することができます。

基盤写真8

銅配線、ハンダと部品の接合状態

基盤写真9

ハンダ中のボイドの様子です。

作製者からのコメント

PCBのような軟質金属を多く含むものを研磨するとダレや段差、スミヤリング等が問題になりますが、薄片技術の応用で作製した研磨片は、平坦で明確な断面組織が得られました。最後に本手法をご教授、ご指導いただいた産業技術総合研究所、地質標本館の大和田朗氏、佐藤卓見氏、平林恵理氏にこの場を借りて深くお礼申しあげます。